かんたんにいうと
PERMA(パーマ)は、「よく生きている状態」を5つの成分に分けた地図です。心理学者 Martin Seligman が提唱しました。5つの頭文字をつないだ名前になっています。
内訳は、P:ポジティブ感情(うれしい・楽しい・穏やかといった良い気分)、E:エンゲージメント(時間を忘れて没頭すること)、R:関係性(人とのつながり)、M:意味(自分より大きな何かに関わっている感覚)、A:達成(やり遂げること、上達すること)の5つです。
この枠組みの便利なところは、「なんとなく満たされない」を具体的な言葉に分解できる点です。気分は悪くないのに空虚だと感じるとき、地図に照らすと「意味」や「関係性」が薄いのかもしれない、と当たりをつけられます。全部を高得点にする必要はありません。
心理学的な定義
PERMA は、Seligman が著書『Flourish』で提示したウェルビーイング理論(well-being theory)の中核をなす5要素モデルです。それ以前に彼が提唱していた「本物の幸福理論」が人生満足度という単一の指標に重心を置いていたのに対し、PERMA はウェルビーイングを複数の測定可能な要素の集合として捉え直した点に特徴があります。
各要素は、①Positive Emotion(ポジティブ感情:快楽的側面)、②Engagement(エンゲージメント:フロー的な没入)、③Relationships(関係性:他者との良好なつながり)、④Meaning(意味:自分を超えたものへの所属と貢献)、⑤Accomplishment(達成:目標の実現や熟達それ自体)と定義されます。
Seligman は、それぞれの要素が満たすべき条件として、①それ自体のために追求される、②他の要素の手段としてのみ定義されない、③独立して測定できることを挙げました。つまり PERMA は「幸福の原因のリスト」ではなく、ウェルビーイングという状態を構成する成分の一覧として提案されています。この点はしばしば誤解されるところです。
なぜ重要なのか
PERMA が広く使われるのは、抽象的な「幸せ」を、手をつけられる大きさに分解してくれるからです。「もっと幸せになりたい」は行動に落ちませんが、「今週は人と会う時間を増やす」「没頭できる作業の時間を確保する」なら実行できます。地図としての実用性が高いモデルです。
もうひとつの理由は、単一指標の弱さを補えることです。人生満足度をひとつの数字で聞くと、そのときの気分や直前の出来事に引っぱられます。5つの側面に分けて見ることで、どこが効いていてどこが薄いのかを識別しやすくなります。
組織や教育の現場でよく採用されるのも、この分解可能性のためです。ただし注意が必要で、PERMA はあくまでモデル(現実を整理する道具)であって、自然界に5つの箱が実在するわけではありません。要素同士は互いに強く関連しており、統計的にきれいに分かれない場合があることも報告されています。地図を現地と混同しないことが大切です。
具体例
仕事
毎日忙しく成果も出しているのに満たされない、というケースを PERMA で見ると、A(達成)は高いのに M(意味)と R(関係性)が薄いことがあります。自分の仕事が誰のどんな場面で役に立っているかを確認する、チーム内で雑談の時間を持つといった、薄い要素を狙った小さな調整が現実的な打ち手になります。
学習
資格勉強が苦しいだけになっているとき、E(エンゲージメント)が働いていない可能性があります。難易度が高すぎるか低すぎるかを調整し、集中を妨げる通知を切る。加えて、学んだことを誰かに説明する機会を作れば M と R も動きます。1つの活動に複数の要素を重ねるのが効率的な設計です。
人間関係
SNS で人とつながっている感覚はあるのに孤独だと感じることがあります。R(関係性)は接触の回数ではなく、相手と自分の状態が本当に共有されているかが鍵とされます。短くても直接話す時間を月に何度か置くほうが、この要素には効きやすいと考えられています。
関連する理論
| 理論・概念 | 関係 |
|---|---|
| フロー理論(Csikszentmihalyi) | PERMA の E(エンゲージメント)の理論的な土台です。挑戦と能力の釣り合いが没入を生むと説明します。 |
| 拡張-形成理論(Fredrickson) | P(ポジティブ感情)に機能を与える理論。良い感情が視野を広げ、長期的な資源を築くと説明します。 |
| 心理的ウェルビーイング(Ryff) | 人生の目的や人格的成長といった次元を含む6次元モデル。PERMA の M と重なりつつ、より体系的な構成を持ちます。 |
| 自己決定理論(Deci & Ryan) | 関係性・有能感・自律性の充足を重視する理論。PERMA の R や A と対応しますが、自律性を独立要素として明示する点が異なります。 |
研究では
PERMA を測る尺度としては、Butler と Kern が開発した PERMA プロファイラーが広く使われています。各要素を数項目で尋ね、プロフィールとして表示する形式です。これにより、集団や個人の中でどの要素が相対的に高く、どこが薄いかを可視化できるようになりました。
一方で、PERMA が既存のウェルビーイング指標とどの程度異なるものを測っているのかについては議論があります。5要素の相互相関が高く、統計的には単一の全体的なウェルビーイング因子とほとんど区別できないという分析結果も報告されており、モデルの独自性を疑問視する研究者もいます。Seligman 側は、実務上の有用性や介入の設計しやすさに価値があると反論しています。また、PERMA の各要素とウェルビーイングの関連の多くは相関的な知見であり、要素を増やせば必ずウェルビーイングが上がるという因果を示したものではない点にも注意が必要です。
メリットと限界
🌱 役に立つところ
- 抽象的な「幸せ」を、行動に落とせる5つの領域に分解できる
- 満たされない感じの原因を、どの要素が薄いかという形で特定しやすい
- 個人・チーム・学校など、異なる場面で共通の言葉として使える
- 1つの活動に複数の要素を重ねる、という効率的な設計ができる
⚠️ 限界・注意点
- 5要素の統計的な独立性には疑問が示されており、モデルの独自性は確定していない
- 自律性や身体的健康、経済的安定など、含まれていない重要な要素がある
- 5つすべてを高めるべきという発想になると、かえって負担や自己評価の低下を生む
- 職場で指標として使うと、ウェルビーイングが評価項目に変質し、従業員への圧力になりうる
高める・活かす方法
✅ 今日からできること
- 5要素を1つずつ10点満点で自己採点する。正確さは要りません。相対的に低い要素を1つ見つけるための作業です。
- いちばん低い要素だけに手をつける。全部を上げようとすると続きません。1つに絞ると変化が観察しやすくなります。
- R(関係性)は予定として確保する。もっとも一貫して重要とされる要素ですが、忙しいときに真っ先に削られる要素でもあります。
- E(没頭)のために、中断されない時間を作る。通知を切った30分でも、没入の質は大きく変わります。
- M(意味)は、大きな使命でなくてよい。自分の行動が誰かの役に立った具体的な場面を1つ思い出すだけでも機能します。
- 点数を目標にしない。PERMA は現在地を確かめる地図です。得点を上げること自体が目的になると、本末転倒になります。
よくある質問
PERMA の5つは全部そろっていないといけませんか?
PERMA と幸福(happiness)はどう違うのですか?
PERMA に批判はありますか?
職場で PERMA を取り入れるときの注意点は?
関連する心理学用語
もっと深く読む
参考
- Seligman, M. E. P. 『Flourish』におけるウェルビーイング理論と PERMA の提示
- Butler, J. & Kern, M. L. による PERMA プロファイラーの開発
- Csikszentmihalyi, M. のフロー理論(PERMA の Engagement の理論的背景)
- Fredrickson, B. L. の拡張-形成理論(Positive Emotion の機能)
- Ryff, C. D. の心理的ウェルビーイング6次元モデル(Meaning との関連)
※ 本ページは上記のような心理学の代表的な理論・知見を一般向けにまとめたものです。学術的な定義や訳語には幅があり、研究の確からしさにも差があります。