かんたんにいうと
マタリングを一言でいうと、「自分がここにいることには意味がある」と感じられる感覚です。英語の matter(重要である、意味がある)から来ており、日本語では「重要感」「存在意義の感覚」などと訳されることもあります。
わかりやすいのは、ない状態を想像することです。会議で自分が発言してもしなくても議論が同じように進む。休んでも誰も気づかない。そういう状況が続くと、能力が評価されていても、人は静かに気力を失っていきます。マタリングが欠けている状態です。
そしてこれはほめられることとは違います。マタリングの中心にあるのは評価ではなく、気にかけられているという実感と、自分が誰かの役に立っているという実感です。だからこそ、成果を出していても孤独な人がいる一方で、目立たなくても満たされている人がいます。
心理学的な定義
社会心理学では、マタリングは「自分が他者にとって意味のある存在であると感じる程度」と定義されます。社会学者 Morris Rosenberg らが、青年期の自己概念を研究するなかで概念化したもので、その後、教育・組織・地域社会などの領域に広がりました。
Rosenberg らは、マタリングを3つの側面から整理しました。①注目(attention)=自分が他者の関心の対象になっていること。②重要性(importance)=自分の身に起きることを、誰かが気にかけていること。③依存(dependence)=誰かが自分を頼りにしており、自分の存在が相手にとって必要であることです。
3つ目は見落とされがちですが重要です。マタリングは受け取るだけでは完結せず、与える側にもなることを含みます。つまり「大切にされている」感覚と「自分が誰かの支えになっている」感覚の両方が、この概念の核にあります。近年は、この2方向を分けて価値を認められる感覚と違いを生み出している感覚として整理する議論もあります。
なぜ重要なのか
マタリングが重視されるのは、それが所属だけでは埋まらない部分を扱うからです。組織や集団に所属していても、自分がいてもいなくても同じだと感じていれば、人は消耗します。人数として数えられていることと、意味ある存在として扱われていることは別だからです。
また、マタリングは孤独の質を説明します。周囲に人がいるのに孤独を感じる状態は珍しくありません。その多くは、関わりの量ではなく「自分のことを気にかけている人がいるか」「自分が誰かの役に立っているか」という感覚の欠如として理解できます。人数を増やしても解消しないのはこのためです。
実務上の価値は、設計できることにあります。名前を呼ぶ、意見を実際に採用する、担当を明確に持たせる、不在に気づいて声をかける。こうした具体的な行為の積み重ねが、マタリングを作ります。抽象的なやりがいの話に見えて、実際には日常の細かい運用の問題です。
具体例
職場
Eさんは評価も報酬も不満はないのに、意欲が落ちていました。理由をたどると、担当業務が細分化され、自分の仕事が誰にどう届いているのか見えなくなっていたことがわかりました。上司が利用者からの声を共有し、判断を任せる範囲を明確にしたところ、状況は変わりました。増えたのは報酬ではなく、意味の見え方です。
学校
教室で誰からも気にされていないと感じる生徒は、成績とは別のところで不適応を起こしやすくなります。効くのは特別扱いではなく、名前を呼ぶ、欠席に気づいて声をかける、係を任せるといった地味な行為です。頼られる役割を持つことは、注目や重要性だけでは補えない依存の側面を満たします。
家庭・地域
退職や子どもの独立のあとに気力が落ちるのは、能力の衰えではなく頼りにされる場面が減ることが関係している場合があります。地域の役割や小さな担当を持つと回復することがあるのは、マタリングの依存の側面が働くためです。支えられるだけでなく支える側に戻れる場が、意味の感覚を支えます。
関連する理論
| 理論・概念 | 関係 |
|---|---|
| 所属欲求(Baumeister & Leary) | 人には安定した対人関係を持ちたいという基本的な欲求があるという理論。マタリングは、所属していても満たされない意味の側面を補足します。 |
| 自己決定理論の関係性欲求(Deci & Ryan) | 他者とつながり、大切にされたいという基本的欲求。マタリングは、そこに「自分が誰かに必要とされている」側面を明示的に加えます。 |
| 人生の意味(meaning in life)研究 | 人生に意味を感じる感覚。誰かにとって意味ある存在だという実感は、その主要な源のひとつとされています。 |
| 心理的安全性(Edmondson) | 率直に発言しても罰されないというチームの状態。発言が実際に扱われる経験は、マタリングの形成とも重なります。 |
研究では
マタリングは自己報告式の尺度によって測定され、青年期の抑うつ気分や自尊感情との関連から研究が始まりました。その後、大学生の適応、職場での離職意図や仕事への意欲、高齢期の心理的健康など、幅広い対象で関連が検討されています。マタリングが低いことは、孤独感や抑うつ的な状態と関連するという知見が繰り返し報告されており、所属の有無とは独立に効いている可能性が指摘されています。
ただし限界もあります。第一に、研究の多くは横断的・相関的であり、マタリングの低さが不調をもたらすのか、不調のためにマタリングを感じにくくなるのかは、双方向の可能性が残ります。第二に、マタリングは所属感・社会的支持・自尊感情といった近い概念と測定上の重なりが大きく、独立した概念としてどこまで有用かは議論が続いています。第三に、尺度や下位次元の定義が研究者によって異なるため、知見の比較が難しいという課題もあります。
メリットと限界
🌱 役に立つところ
- 所属や評価だけでは説明できない、意味の感覚の欠如をとらえられる
- 孤独を人数の問題ではなく関わりの質の問題として理解できる
- 名前を呼ぶ、任せる、不在に気づくなど具体的な行為に落とし込みやすい
- 支えられる側と支える側の両方向を含むため、支援の設計が一方通行になりにくい
⚠️ 限界・注意点
- 所属感・社会的支持・自尊感情との重なりが大きく、独自性については議論がある
- 多くの知見が相関的で、マタリングの低さが原因だと断定することはできない
- 「必要とされること」を求めすぎると、過剰に役割を引き受けて消耗する方向に働くことがある
- 組織が士気向上のスローガンとして使うと、待遇や労働環境の問題を覆い隠す言葉になりかねない
高める・活かす方法
✅ 今日からできること
- 名前を呼ぶ。もっとも単純で、もっとも見落とされている行為です。注目の側面は、日常の呼びかけから作られます。
- 意見を採用したら、そう伝える。「あなたの提案でここを変えた」という一言が、重要性の感覚を具体的な事実に変えます。
- 頼りにする場面を作る。助けるだけでは依存の側面は満たされません。役割や担当を任せることが必要です。
- 不在に気づいたら声をかける。休んだ人に「気づいていた」と伝えるだけで、意味の感覚は大きく変わります。
- 自分の仕事の届き先を確認する。成果が誰にどう役立っているかが見えないとき、マタリングは下がります。情報を取りに行ってください。
- 役割を抱えすぎない。必要とされたい気持ちが強いときほど、断る基準をあらかじめ決めておくことが大切です。
よくある質問
マタリングと承認欲求はどう違うのですか?
職場でマタリングを高めるには何をすればいいですか?
誰からも必要とされていないと感じるときはどうすればいいですか?
マタリングを求めすぎることに問題はありますか?
関連する心理学用語
もっと深く読む
参考
- Rosenberg, M. & McCullough, B. C. によるマタリング(mattering)概念の提唱と青年期研究
- Elliott, G. C. らによるマタリングの多次元構造(注目・重要性・依存)の検討
- Baumeister, R. F. & Leary, M. R. の所属欲求(need to belong)
- Deci, E. L. & Ryan, R. M. の自己決定理論における関係性(relatedness)
- Edmondson, A. C. の心理的安全性(psychological safety)研究
※ 本ページは上記のような心理学の代表的な理論・知見を一般向けにまとめたものです。学術的な定義や訳語には幅があり、研究の確からしさにも差があります。