かんたんにいうと
コーピングを一言でいうと、「ストレスに対して自分がとる対処のしかた」です。cope(対処する)という英語から来ています。ストレスそのものを扱う概念ではなく、それにどう向き合うかという行動と考え方を指します。
大きく2つの方向に分けられます。ひとつは問題焦点型で、状況そのものを変えようとする対処です。情報を集める、計画を立てる、交渉する、といった動きが含まれます。もうひとつは情動焦点型で、状況に伴う気持ちのほうを整える対処です。話を聞いてもらう、気晴らしをする、捉え方を変えるなどが該当します。
大事なのは、どちらが優れているという話ではないことです。変えられる状況なら問題焦点型が役に立ちますし、自分の力では変えられない状況なら情動焦点型のほうが現実的です。有効さは、対処のやり方そのものではなく、状況との組み合わせで決まります。
心理学的な定義
心理学では、コーピングは「自分の資源に負担をかける、あるいは資源を超えると評価された外的・内的要求を処理するための、絶えず変化する認知的・行動的努力」と定義されます。Richard Lazarus と Susan Folkman による定義で、現在も広く参照されています。
この定義には重要な含意があります。第一に、コーピングは努力(effort)であって、結果の成否とは切り離されている点です。うまくいかなかった対処もコーピングです。第二に、絶えず変化するとされている点です。固定した性格特性ではなく、状況に応じて選び直されるものとして捉えられています。
分類としては、状況の変更を目指す問題焦点型と、感情の調整を目指す情動焦点型が基本です。研究によっては、状況や感情から距離を取る回避型、他者に助けを求めるsocial support 希求、出来事に意味を見出す意味焦点型などを加えて整理することもあります。分類の仕方は研究によって幅があり、絶対的な区分ではありません。
なぜ重要なのか
コーピングが重視されるのは、同じ出来事でも人によってダメージの大きさが違う理由を説明できるからです。Lazarus らの枠組みでは、出来事はまず「これは自分にとって脅威か」と評価され(一次評価)、次に「自分には対処できるか」が評価されます(二次評価)。この評価を経て選ばれる行動がコーピングであり、ストレス反応の大きさを左右します。
また、実務的に重要なのがレパートリーという発想です。ひとつの対処法だけに頼っていると、それが使えない状況で行き詰まります。運動でしか気分を切り替えられない人は、体調を崩したときに手立てを失います。有効な対処法を多く持っておくこと自体が、対処力の一部だと考えられています。
一方で、注意が必要なのが回避型の扱いです。考えないようにする、先送りする、酒などで紛らわせる。これらは短期的には楽になりますが、長期的には問題が大きくなり、対処の余地が減ることが指摘されています。ただし、急性の強い衝撃を受けた直後など、一時的に距離を取ることが適切な場面もあり、回避を一律に悪いものとするのも正確ではありません。
具体例
変えられる状況
納期が厳しい案件を抱えたNさんは、上司に状況を説明し、優先順位の調整と一部の作業の分担を相談しました。状況そのものに働きかける問題焦点型のコーピングです。この型が有効なのは、自分の行動で条件を動かせる余地がある場合です。まず「これは変えられるか」を見立てるところから始まります。
変えられない状況
家族の病気という状況に直面したOさんは、事態そのものを変えることはできませんでした。信頼できる友人に話を聞いてもらい、意識的に休息を取り、できる範囲の支度を進めました。感情のほうを整える情動焦点型が中心になる場面です。ここで無理に問題解決を試みると、かえって無力感を強めることがあります。
回避の短期と長期
苦手な相手からのメールを開かずにいたPさんは、その日は気が楽でした。しかし数日後、対応が遅れたことで問題が大きくなり、必要な労力が増えました。回避は短期の安心と引き換えに、長期の負担を増やすことがあります。一方、大きな衝撃を受けた直後に一時的に距離を取ることは適切な場合もあり、時間軸で分けて考える必要があります。
関連する理論
| 理論・概念 | 関係 |
|---|---|
| ストレスの交流モデル(Lazarus & Folkman) | 出来事の一次評価・二次評価を経てコーピングが選ばれ、ストレス反応が決まるという枠組み。コーピング研究の基礎です。 |
| 感情調整(Gross) | 感情が生じる過程のどの段階に働きかけるかを整理した理論。情動焦点型コーピングと重なる部分が大きい枠組みです。 |
| ソーシャルサポート | 他者からの支援が、ストレスの影響を緩和するという考え方。援助希求はコーピングの重要な一形態とされます。 |
| レジリエンス | 逆境からの回復過程。コーピングの選択と幅は、その過程を支える要素のひとつとして位置づけられます。 |
研究では
Lazarus と Folkman は、ストレスを出来事そのものではなく、人と環境の関係のなかで生じるものとして捉え直しました。この交流モデルのなかで、認知的評価とコーピングは中核の位置を占めます。測定には Ways of Coping Questionnaire をはじめとする自己報告尺度が用いられ、その後 COPE などの尺度も開発されて、多様な下位分類が提案されてきました。ただし、コーピングの分類体系は研究によって異なり、統一された枠組みがあるわけではありません。
実証研究では、回避的な対処が長期的には心理的不調と正の関連を示すという報告が比較的一貫している一方、問題焦点型が常に良い結果をもたらすわけではないことも示されています。自分では変えられない状況で問題解決を試み続けると、無力感が強まることがあるためです。ここから導かれるのは、コーピングの有効性は状況との適合(goodness of fit)によって決まるという見方です。なお、これらの知見の多くは自己報告に基づく相関的なものであり、対処のしかたが不調を生んだのか、不調が対処の選択を変えたのかを一方向に断定することはできません。
メリットと限界
🌱 役に立つところ
- ストレスへの向き合い方を、変えられる具体的な行動として扱える
- 問題焦点型と情動焦点型という軸で、状況に応じた使い分けができる
- 対処法のレパートリーを増やすという、実行可能な改善の方向がある
- うまくいかない対処も努力として位置づけられ、自分を責めずに見直せる
⚠️ 限界・注意点
- 分類体系が研究によって異なり、どの型に当てはまるかの判定は曖昧になりやすい
- 自己報告に基づく相関的知見が中心で、対処と不調の因果の向きは断定できない
- 「対処が下手だから苦しい」という個人責任の見方に傾くと、負荷の大きさそのものが見過ごされる
- 問題焦点型を万能とみなすと、変えられない状況で無力感を強めることがある
高める・活かす方法
✅ 今日からできること
- まず「これは変えられるか」を見立てる。変えられるなら問題焦点型、変えられないなら情動焦点型。ここで型を選びます。
- 自分のコーピングリストを書き出す。実際に効いた対処を20個ほど並べておくと、消耗しているときに選ぶ手間が減ります。
- お金・体力・時間をかけない対処を混ぜる。条件が悪いときほど使えるものが必要です。数分でできるものを入れてください。
- ひとりで完結する対処だけにしない。誰かに話す、相談する、という援助希求もレパートリーの一部です。
- 回避を使うときは期限を決める。一時的に距離を取るのは有効ですが、いつ向き合うかを決めておくと長期のコストを抑えられます。
- 不調が続くときは専門機関へ。対処法を増やしても改善しない、睡眠や食欲の変化が続く場合は、医療機関・産業医・公的な相談窓口に相談してください。
よくある質問
問題焦点型と情動焦点型は、どちらが優れているのですか?
気晴らしや現実逃避は、悪いことなのですか?
コーピングの引き出しは、どのくらい必要ですか?
対処法をいろいろ試しても楽になりません。どうすればよいですか?
関連する心理学用語
もっと深く読む
参考
- Lazarus, R. S. & Folkman, S. のストレスとコーピングに関する交流モデル
- Folkman, S. & Lazarus, R. S. による Ways of Coping Questionnaire
- Carver, C. S. らによる COPE 尺度とコーピング下位分類の検討
- 回避的コーピングと心理的不調の関連に関する諸研究
- Gross, J. J. の感情調整プロセスモデル
※ 本ページは上記のような心理学の代表的な理論・知見を一般向けにまとめたものです。学術的な定義や訳語には幅があり、研究の確からしさにも差があります。